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 ポンチャン.com   
  

自転車日本縦断


2、津軽海峡


「さぁー!自転車よ。出発だよ。よろしくね。」

早朝、函館の澄み切った空気をいっぱいに吸いこんで、東日本フェリー発着場まで随

分時間をかけて向かった。道中、心身ともに爽やかで陽気な気分になった。

その理由は、この壮大なすばらしい海を見ながら自転車を走らせていたからである。

私の背中のプラカードを見た登校中の児童たちが、

「ポンチャン頑張って!」

とあちこちから叫んでいるのが聞こえた。

「うん、頑張るね。頑張るからね。有り難う。気をつけて学校に行くのよ。」

フェリー発着場まで後少しというところで大雨になった。レインコートを取り出す暇もなく、

びしょ濡れになり、発着場の待合室に飛び込んだ。

そこでパートの奥さんから差し出された函館のトウモロコシを半分づつ食べた。

とてもおいしかった。

売店では観光客が北海道の珍味に群がっていた。みんな函館の夜景でも見に来ていたの

だろうか。

随分待たされた後、大きな客船に乗り込んだ。函館から青森まで確か3時間40分程

かかった。船上から下北半島や竜飛岬をゆっくりと眺める事が出来た。しかし一方で

は難民救済のプラカードを少しでも多くの人たちに見てもらおうという願いもあった。

船上で若者達からいい案をもらったり、又彼らの夢や希望を聞いたりして有意義

な時間を過ごした。

青森に着いた私は市街地から繁華街に入り、路地を少し通りぬけて今夜の宿を見つけた。

宿の奥さんは私の姿を見るといそいそとしながら、玄関に自転車を入れるように配

慮したり、お風呂に早く入るように勧められた。そしてサクサクとした美味しい青森りんごを

出してくださったりしてえらい気のつかいようであった。

翌朝奥さんとの別れを惜しんで、商店街の朝市を通り抜けて青森警察署に立ち寄った。

おまわりさんが首を傾げて、

「この先からダンプの国道ですよ。それに女の人は無理でしょうーー。」と

重苦しい言葉を返された。

「大丈夫ですよ」

と、私は淡々とした口調で返事をした。

「私に何かありましたらよろしくお願いいたします」

と、言い残してそこを後にした。

その頃の私は世間知らずだったということがかえって良かったのか、それに地理の勉強

もあまりせず旅の恐さも知らなかったのが返って良かったのか・・・。今となってみればぞっ

とさえもします。

十和田湖までの道のりはそれほど苦しくはなかった。

途中陸奥湾や野辺地湾などの美しい景色を眺めながら急いでいると、お腹がグーグーと

鳴って来た。国道沿いの陸奥湾の帆立貝の看板に誘われて、海の見えるドライブインに

自転車を止めた。貝の香ばしい味は私に元気をつけてくれた。

十和田市では地元の人から町の様子や行く先の国道沿いの情報など念入りに聞いた。

その日は町の中心地にある大きな温泉旅館に一泊した。

翌朝従業員の方から軍手を頂いて、玄関先の見送りに励まされた私は、住宅街を通り

抜けて国道に入った。ここで携帯電話の電池を取り替えて、市街地のドライブイン

で食事を取った。この辺に来ると人家のない山間の急な下り坂、上がり坂が多く身も心も

緊張の連続であった。

この辺までくるとプラカードを見たダンプのお兄さんたちからの頑張れ!頑張って!

と言う大きな声援が多くなってきて励みになったが、心の油断は絶対に許されなかった。

民家が見えてくると少しホットするが、この国道四号線はダンプカーが我が物顔

で走るので気が許せない。ダンプカーと並んで走った時には車の流れが途切れたとき

に私はスピードを出す事にしていた。1日100キロ以上を走らなければいけないと考えて

いた私である。その反面、町中心では少し自転車を押してみたり、又道行く人たちとの

会話も楽しんだりした。八戸市から三戸群に入る頃には、随分長い登り坂が続いたので、

ここらで少し田園風景に見とれたりした。また道端には秋を知らせる彼岸花が赤く燃えて

いた。そして間もなく収穫が始まろうとする稲穂が新米となる時を待っているかのような気

さえもした。又、りんご園で木に沢山のりんごが実をつけていた。そこには東北地方の牧歌

的な田園風景が広がっていた。そんなすばらしい場所で新鮮な空気をいっぱい吸い込み、

私自身も満足感に浸っていた。その時、山間の麓にポツリポツリと家が見え、急坂の途中

でリヤカーを押したおばさんが下っているのが見えた。

私は弾んだ声で挨拶をした後、   (続く)           





次は、その山を越えて

自転車日本縦断の旅 目次







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    エッセイ集目次

1 私の日常生活

2、薩摩おごじょ

3、国内の旅


4、海外の旅

5、自転車日本縦断の旅

6、普賢岳の千羽鶴

7、阪神淡路大震災

8、私の服飾観


9、命が延びる食生活

10、思い出は霧に包まれて

11、世界で一番大好きな


12、高隈山 戦争


13、松竹梅 一本松